Etiology_Rokuin

ETIOLOGY ROKUIN

中医学では、人体が疾病になる「病因(病因)」には、様々ありますが、人体に悪影響を及ぼしたり、疾病の原因になる外的要因を「六淫」といいます。

六淫とは、先ず自然界の正常な6つの気候(湿])の変化を「六気(ろっき)」といいます。
その六気に対して、 人体の適応能力の低下(正気不足)が起こったり、 また普段の適応能力を超えるような異常な気候変動があれば、六気は、「六淫(ろくいん)」或いは「六邪(ろくじゃ)」といった人体に悪影響を及ぼす「病因」になります。

六淫(外感六淫)には、それぞれ特有の性質があり、人体は、その性質によって、様々な疾病や症状を引き起こします。特に外感六淫は、人体に正気と邪気との争い(邪正相争)を生じさせることがあり、また正気と邪気の盛衰(邪正盛衰)によって、その治療方法や予後に影響が現われます。

六淫の発病には、下記のような特徴があります。
たとえば、六淫には、体表部(皮毛[ひもう]・腠理[そうり]等)や口鼻から侵襲し、表から裏へ、浅から深へ伝変するといった「外感性(がいかんせい)」があり、また気候の変化や居住環境と関係する「季節性(きせつせい)」や「地域性(ちいきせい)」があります。
六淫は、単独で侵襲することもありますが、2種類以上の「合邪(風寒・風熱・寒湿・湿熱・風寒湿・風湿熱等)」となって、人体を侵襲します。これを「相兼性(そうけんせい)」といいます。
また一定の条件が揃うと人体に疾病を発生させるが、その病態は一定ではなく変化するといった「転化性(てんかせい)」もあり、その転化性の中で、五気(風・寒・暑・湿・燥)が熱に化すことを「五気化火(ごきかか)」といいます。

風(ふう)とは、春季の支配する気といわれ、春季のみでなく他の季節でも発生し、特に外感発病の重要な病因となるといわれます。
また風には、「軽揚(けいよう)・開泄(かいせつ)・侵襲陽位(しんしゅうようい)・善行而数変(ぜんこうにしてすうへん)・百病之長(ひゃくびょうのちょう)」等の性質があるといわれます。

A 風は、陽邪であり、その性質は軽揚・開泄であり、人体の陽位を侵襲しやすい。
軽揚 : 風は、軽く舞い上がる性質を持つため、人体の上部に症状(頭痛・目痒・鼻塞・顔面浮腫等)が現われやすいといわれます。
開泄 : 風は、 疎通(そつう)・透泄(とうせつ)の性質があり、そのため、肌腠(きそう)が疏鬆となれば、汗孔が開いて汗が出やすくなるといわれます。
侵襲陽位 : 風は、人体の陽位(体表[皮毛]・人体上部[頭面・咽喉・肺])を侵襲しやすいといわれます。

B 風は、善く行り数々変化する。
善行而数変 : 風による疾病は、その病変部位(・時間)が移動したり、一定でなかったり(遊走不定)、また病変が急激に変化する等といった特徴があります。

C 風は、動きやすい。
善動:風は、よく動き、動の性質を持つため、目眩・痙攣・角弓反張(かくきゅうはんちょう)・口眼歪斜(こうがんわいしゃ)等の症状が現われやすいといわれます。

D 風は、百病の長であり、他邪を先導する。
百病之長 : 風は、他邪(寒・湿・燥・熱)と結合しやすく、また結合した邪気を先導し、人体を侵襲するといわれます。

寒(かん)とは、冬季の支配する気であり、寒冷の性質を持つといわれます。
また寒には、「易傷陽気(えきしょうようき)・凝滞(ぎょうたい)・収引(しゅういん)」等の性質があるといわれます。

A 寒は、陰邪であり、人体の陽気を損傷しやすい。
易傷陽気 : 寒は、人体の陽気が損傷しやすいため、悪寒・畏寒・腹冷・肢冷等の寒冷性の症状が現われやすいといわれます。

B 寒は、凝滞の性質を持つ。
凝滞 : 寒は、気血・津液の運行を滞らせたり、また経脈の気血を凝滞させるため、疼痛を発生させやすいといわれます。

C 寒は、収引の性質を持つ。
収引 : 寒は、経脈・筋脈・腠理を収縮させたり牽引させるため、筋肉が引きつったり(筋脈拘急)、また汗孔を収縮するため、汗が出なくなるといわれます。

暑(しょ)とは、夏季の支配する気であり、盛夏だけに見られ、炎熱の性質と湿の性質が合わさっているといわれてます。
また暑は、「炎熱(えんねつ)・昇発(しょうはつ)・挟湿(きょうしつ)」等の性質があるといわれます。

A 暑は、陽邪であり、炎熱の性質を持つ。
炎熱 : 暑により、陽熱が熾盛となれば、高熱・面紅(めんこう)・煩渇(はんかつ)等の炎熱性の症状が現われやすいといわれます。

B 暑は、昇散の性質を持ち、気と津液を損傷しやすい。
昇散 : 暑により、腠理が開いて多汗となれば、気津が消耗し、口渇・気短(きたん)・倦怠等の症状等が現われやすいといわれます。

C 暑は、湿と結びつきやすい。
挟湿 : 暑は、湿を伴いやすく、四肢倦怠・胸脘脹悶・悪心・下痢等の湿の停滞による症状が現われやすいといわれます。

湿(しつ)とは、長夏(旧暦6月頃)の支配する気であり、 季節的に湿度が高い時期に多いといわれます。
また湿は、「阻遏気機(そあつきき)・易傷脾陽(えきしょうひよう)・重濁(じゅうだく)・粘滞(ねんたい)・侵襲陰位(しんしゅういんい)」等の性質があるといわれます。

A 湿は、陰邪であり、気機を阻塞し、脾胃の陽気を損傷しやすい。
阻遏気機 : 湿は、臓腑・経絡の気機を阻害しやすく、そのため、胸悶(きょうもん)・脘痞(かんひ)・大便不爽(だいべんふそう)等の症状が現われやすいといわれます。
易傷脾陽 : 湿は、脾陽を損傷しやすく、そのため、脾陽不振により、水湿が停滞すれば、腹瀉・水腫等の症状が現われやすいといわれます。

B 湿は、重濁の性質を持つ。
重濁 : 湿は、重く濁りやすいので、頭重(ずじゅう)・身重(しんじゅう)、排泄物や分泌物が濁って汚い等の症状が現われやすいといわれます。

C 湿は、粘滞の性質を持つ。
粘滞 : 湿は、粘って滞るので、排泄物や分泌物がベタベタしてすっきりしない(粘膩不爽)、また病変部位が治りにくい等の症状が現われやすいといわれます。

D 湿は、下降し陰位を侵襲しやすい。
侵襲陰位 : 湿は、水の様に下へ向かう性質があり、人体の下位(人体下部[腰部・下肢])を侵襲しやすいといわれます。

燥(そう)とは、秋季の支配する気であり、また初秋に多い温燥と晩秋に多い涼燥と分類されることがあります。
また燥は、「干渋(かんじゅう)・易傷肺(えきしょうはい)」等の性質があるといわれます。

A 燥は、干渋の性質を持つため、人体の津液を損傷しやすい。
干渋 : 燥の乾燥性により、津液が損傷すれば、口燥(こうそう)・鼻乾(びかん)・咽乾(いんかん)・口渇喜飲(こうかつきいん)・皮膚枯燥等の症状が現われやすいといわれます。

B 燥は、肺を損傷しやすい。
易傷肺 : 肺は、嬌臓(きょうぞう)ともいわれ、潤を喜び燥を悪む(肺喜潤悪燥)を性質を持っており、そのため、燥は、肺を損傷しやすいといわれます。

火(か)・熱(ねつ)とは、陽が盛んになると生じ、また火と熱は、外淫のものを熱邪、内生のものを火邪と分類することがあります。
また火熱は、「炎上(えんじょう)・生風動血(しょうふうどうけつ)・易傷津耗気(えきしょうしんもうき)・易致癰腫瘡瘍(えきちようしゅそうよう)」等の性質があるといわれます。

A 火熱は、陽邪であり、炎上する性質を持つ。
炎上 : 火熱は、炎の様に上に向かう性質があり、そのため、高熱・面紅目赤(めんこうもくせき)・心煩失眠(しんぱんしつみん)・譫語(せんご)等の症状が現われやすいといわれます。

B 火は、風を生じ、血を動かす。
生風動血 : 火熱は、その熱によって陰血を損耗し、また熱が極まることで風を生じさせる性質を持ち、そのため、高熱・痙攣・強直(きょうちょく)等の症状を生じさせやすいといわれます。
また火熱は、血液を妄動させて、脈管を傷つけ、各種出血症状(吐血・衂血[じゅくけつ]・皮下出血・血尿・血便・月経過多・崩漏[ほうろう]等)を生じさせるといわれます。

C 火は、気と津液を耗傷させる。
易傷津耗気 : 火熱は、その炎上性により、六淫の中でもっとも陰津が消耗しやすく、また元気も消耗しやすいといわれます。

D 火は、癰腫瘡瘍(急性化膿性疾患や化膿性のできもの)を生じさせやすい。
易致癰腫瘡瘍 : 火熱が、血分に侵入し、それが局所に集り、血肉を腐食すれば、癰腫(ようしゅ)・瘡瘍(そうよう)等の化膿性疾患が生じるといわれます。